サルマン・ラシュディーの『悪魔の詩』をめぐる騒動が2月にピークを迎えた時、イスラームに批判的だと解されるかもしれない本を出版する前に、出版社は二度考えるだろうと、出版者達は予想した。今や、出版者の拒絶にも関わらず、ある中東学者は言う。この警告が、ラシュディー事件に関する自分の著書契約が最近キャンセルされたことに導いたのか、と。
その学者とは、フィラデルフィアの外交政策研究所の所長ダニエル・パイプス氏である。彼は、なぜ『悪魔の詩』が、そのような反応を集中的に促進したかを考察する本を提案した。彼の中東関連の三冊の本のうち、一冊を出版したベーシック・ブックスが、4月に、来春には出版を計画するという本の契約を送ってきた。
5月に、パイプス氏は『アヤトッラーと小説家と西洋』と題する最終原稿を提出した。三週間後に、ベーシック・ブックスの会長で発行者でもあるマーティン・ケッスラー氏から、その契約はキャンセルすると、電話で告げられた。パイプス氏によれば、その契約破棄は本意ではないと匂わせていた、という。「初めは、その本の商業上の見込みを考え、先に進めることを決心したが、法人の上役が却下したのだ」。ベーシック・ブックスは、ルパート・マードック氏のニューズ・コーポレーションが所有するハーパー社の子会社だ。
ハーパー社が事を前に進めて、草稿をどこにでも出してよいとした、とパイプス氏は言う。「その意味で、私は不当に扱われた著者ではない」「しかし、一般の出版社にとっての言外の意味に、仰天させられている」。彼の不快に追い打ちをかけたのは、同じ頃、マードック氏の他の出版社の一つ、コリンズ社が、英国で『ラシュディー・ファイル』という本をキャンセルしたことだった。
ハーパー社とコリンズ社の最高経営責任者ジョージ・クレイグ氏は、ケッスラー氏のみが、パイプス氏の契約キャンセルの決断を下したという。ハーパー社のマーケティング部門が、その本は利益を生まないと確信させた後のことである。クレイグ氏は、『ラシュディー・ファイル』のキャンセル決定は、またもや商業的理由で、コリンズ社の常務取締役がしたと述べた。ケッスラー氏は、昨日あるいは月曜日に、電話をよこさなかった。
ハーパー社とコリンズ社が、イスラームやラシュディー事件に関する本を禁じたということを、クレイグ氏は否定している。