専ら非暴力の市民的不服従を使ってインドを独立へと導こうとして不成功に終わったマハトマ・ガンジー宛の書簡で、神学者のマルティン・ブーバーは、平和のためにユダヤ・キリスト教の自説を述べた。「私は軍隊を望みません。しかし、善を破壊する邪悪さを防御する他の方法がないならば、私は軍隊を使うでしょうし、神の御手に己自身を委ねるだろうと信じます」。
太古から、現実主義者と理想家は平和にとっての必要な諸条件を討論してきた。古代ギリシャ人は戦争を自然の自然律の一部だと考えた。だが1700年代までに、ジャン・ジャック・ルソーのような哲学者は、戦争は時代錯誤的になったと論じていた。続く第一次世界大戦では、平和主義がますます流行となってきた。実際、1928年にケロッグ=ブリアン条約が戦争を「非合法化」した。
「国際紛争の防止、管理、平和的解決の促進」のため1984年に議会によって創設された、ほとんど知られていないが影響力のある米国平和研究所(USIP)は、今や、どのように平和が定義され、最も良く追求されるかを巡る哲学論争の最新の引火点になってきた。米国の納税者によって支払われた1620万ドルを利用して、その機関の70名の雇用者は、研究に資金供給し、奨学金を与え、本を出版し、高校生向けに国民平和エッセイコンテストを主催さえする。米国平和研究所は、ワシントン・モールに新本部を建設する時、より大きな可視性を獲得するだろう。
今ジョージ・W・ブッシュ大統領が、イスラーム急進主義を専門とする中東学者で、多作の著述家で、『エルサレム・ポスト』紙コラムニストのダニエル・パイプス氏を、超党派的な15名の無給の役員会理事に指名した。彼の指名に際して、リベラル派やムスリム唱道集団やしぶといユダヤ系のオスロ賛成者達は、反対の奔流を浴びせた。
『ワシントン・ポスト』紙は、パイプス氏が「イスラームと西洋の間の架け橋…の破壊者だと、ムスリムに長らく見なされてきた」と社説で論評した。それで、「'場所もあろうに'その機関に彼が指名されたことは」米国司法省によって「並外れて精査されることを案じている」ムスリムの「傷の塩」である。
アラブ・アメリカ反差別委員会(ADC)は、その指名を「極右で親リク―ド(かつ)ネオコン」政権からの「悲しいオーウェル風の」シグナルだと呼ぶ。イスラーム機関のハレド・サフリは不満を言う。「パイプスがもし、多くの偏屈な彼の発言や著述に対して謝罪し損ねるなら、彼は指名を取り下げるべきです」。そして、アラブ・アメリカ機関のジェームス・ゾグビーは言う。「ダニエル・パイプスは、ムスリムに関するすべてを強迫的に憎悪するという問題を抱えています」。全ての中で最も有効な非難は、ADCがパイプス氏を「平和の人ではない」と論じていることだ。その証拠は?彼は「オスロ和平プロセスの辛辣な反対者です」。
パイプス氏のユダヤ系反対者達は、類似の方針を取る。ニューヨーク州立大学名誉教授のドン・ペレツは「彼の見解が米国平和研究所の目的に資すると私は思いませんね。紛争の平和的解決のために働くことですから」。そして、ジャーナリストのオリ・ニールは『前進』誌で論争を報じつつ、フィラデルフィアに基盤を持つパイプス氏のシンクタンク中東フォーラムを「イスラエル・パレスチナ和平におけるアメリカ支援の努力について鋭く批判的」だと描写する。
公平を期すれば、オスロ関連の皆がパイプス氏の指名に反対しているのではない。アメリカ・ユダヤ委員会のディヴィド・ハリスは、パイプス氏の「卓越した学問的博識」に基づき「心から指名を支持します」と述べる。それで、パイプス指名を巡るバトルは、その候補者が反ムスリム偏屈者で和平の反対者かどうかに要約される。彼はどちらでもない。
ムスリム文明は近代化されなければならないとパイプス氏は信じている。そして、もしムスリム文明が西洋の民主的諸価値と法の支配を信奉するならば、やっとそうすることができるだろう、と。「現代性はそれのみで存在しませんが、その作り手と密接に付着しています」。もし誰かが橋を架けようとするならば、それはダニエル・パイプス氏である。「私の立場は、戦闘的イスラームは問題で、穏健なイスラームは解決だというものです」。どこでも彼は言う。「ムスリムの統合派は、法の支配が広まっている民主的な国で暮らすことを喜んでいますが、その一方で、極端な優越主義者は中東と南アジアの習慣を輸入したいと望みます」。
この新聞でパイプス氏のコラムに馴染みのある人なら誰でも知っていることだが、彼が言及している「習慣」とは、タリバン、サッダーム・フセイン、ハマス、アル・カーイダと関連のある抑圧者で急進主義者のことであって、イスラームではない。
パイプス批判者でアメリカ・イスラーム関係協議会(CAIR)議長のオマール・アハメドは、1998年に述べた。「イスラームは、アメリカで他のいかなる信仰とも平等ではないが、優勢になってきています。コーランは...アメリカにおいて最高権威であるべきです。そしてイスラームは地球上で唯一の受け入れられた宗教であるべきです」。それはまさに、パイプス氏が暴こうとしてきた、イスラームの唯一の型としての原理主義者の信条である。そしてそれは、平和を欲する誰によっても奨励されるべき型ではない。
もしかしたら、パイプス氏が穏健なムスリム指導者達の支持を持っているのは、そのためかもしれない。民主主義と寛容のための米国協議会の会長タシュビー・サイードは言う。「ブッシュ氏がダニエル・パイプス氏を指名した時、ブッシュがテロとの戦いと、より平和な世界を促進することに関して真剣であるということで、ブッシュは私の心を捕えました...。パイプス氏は、自分が尊重しているイスラームと、その戦闘型とを識別することで先んじています」。
パイプス指名の承認は、アメリカが戦闘的イスラームを信じて、このテロという繁殖の基盤に対する情け容赦なき戦いを維持するだろうというシグナルであろう。米国平和研究所の理事にパイプス氏が存在することはまた、彼らの信仰がテロリストにハイジャックされたと見てきたアメリカの穏健派ムスリムを元気づけることだろう。それは最終的に、理想家のみならず現実主義者も、どのように西洋文明が平和を追求するかにおいて述べる権利があるという定理を強化することだろう。